
前回の記事では、WordPress 保守の実質コストを4つの層に分けて可視化するテンプレートを紹介しました。
テンプレートで現状の月額コストが見えたら、次に浮かぶのは「では移行した場合、結局いくらかかるのか」という問いです。ここで注意したいのは、単月の比較では移行の判断はできないということです。移行には一時費用がかかり、その回収には時間がかかります。逆に、現状維持にも「担当者交代」のような数年スパンでしか発生しないコストが潜んでいます。どちらも、月額の比較表には現れません。
そこで本記事では、比較の時間軸を3年に広げます。前回と同じモデルケースを使い、「レンタルサーバーで現状維持」「Amimoto マネージドホスティングへ移行」「Shifter で静的化」の3つのシナリオについて、人件費按分と一時費用を含めた3年総コストを試算します。
目次
試算の前提条件
前回のモデルケースを引き継ぎます。
- コーポレートサイト1サイト、プラグイン25本
- Web 担当者1名が他業務と兼務で保守
- 現状はレンタルサーバー(月2,000円)で運用
- 定常保守作業は月5時間、突発対応は年30時間の実績
- 時間単価は10,000円(会社負担分を含む実質コスト)
為替は1ドル160円で換算します。
なお、この試算はあくまでモデルケースです。実際の金額はサイトの規模・構成・要件によって変わります。本記事の目的は「正解の金額」を示すことではなく、自社で同じ試算をするときに、どの費目を拾えばよいかを示すことです。
シナリオ1:レンタルサーバーで現状維持
移行しない場合のコストです。一時費用はゼロですが、月次コストがそのまま36ヶ月続きます。
| 費目 | 月額 | 3年合計 |
|---|---|---|
| サーバ・ドメイン・SSL | 2,500円 | 90,000円 |
| 定常保守作業(月5時間) | 50,000円 | 1,800,000円 |
| 突発対応(年30時間÷12) | 25,000円 | 900,000円 |
| 合計 | 77,500円 | 2,790,000円 |
これに加えて、3年というスパンでは高い確率で発生するのが担当者の交代です。兼務担当者の異動・退職に伴う引き継ぎは、ドキュメントが整備されていない場合、引き継ぎ作業そのものに10〜20時間、その後の習熟期間中の非効率を含めるとさらに大きくなります。前回の記事で「実績なし(リスク未計上)」と書く欄があったように、ここでも発生が不確実なコストは合計に含めず、別枠のリスクとして認識しておきます。
現状維持の本質的な特徴は、総額の約97%が人件費だという点です。つまりこのシナリオのコストは「サーバ代」ではなく、ほぼ全額が担当者の時間です。
シナリオ2:Amimoto マネージドホスティングへ移行
動的 WordPress のまま、インフラ領域の運用を委託するシナリオです。ここで押さえておきたいのは、料金以前のサーバ構成の違いです。レンタルサーバーは1台の物理サーバを多数の契約者で共用するマルチテナント構成であるのに対し、Amimoto は AWS 上に自社専用の環境を構築するシングルテナント(専有)構成です。
共用構成では、同じサーバに同居する他の利用者の負荷や障害の影響を受ける可能性があり、リソースの上限もサーバ全体の都合で決まります。専有構成ではリソースが自社サイトのために確保され、他の利用者と環境が分離されているため、セキュリティ上の分離境界も明確です。この構成差は月額料金の差の大きな部分を説明する要素であり、後述する総コスト比較を読むうえでの前提になります。
一時費用(初年度のみ)
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| サイト移行作業 (DNS 切替・動作検証含む) | 200,000円(想定) |
| 移行に伴う社内対応(検証立ち会い・社内周知など10時間) | 100,000円 |
| 一時費用合計 | 300,000円 |
月次コスト
| 費目 | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| Amimoto Professional Large(年払い・10%オフ) | 34,650円 | 税込 |
| 定常保守作業(月2時間に減少) | 20,000円 | サーバ監視・バックアップ・インフラ起因の調査が委託範囲へ。WordPress 本体・プラグインのアップデートは残る |
| 突発対応(年15時間÷12) | 12,500円 | インフラ起因の障害対応が委託範囲へ。プラグイン起因のトラブルは残る |
| 月次合計 | 67,150円 |
3年総コスト:67,150円×36ヶ月+300,000円=2,717,400円
現状維持(279万円)との差は約7万円。3年ではほぼ並びます。この結果を「移行する意味がない」と読むか、「ほぼ同額で、突発対応の変動リスクとインフラの説明責任が委託先に移る」と読むか ── これが前回の記事の最後に触れた「金額の比較に隠れた論点」です。なお、残っている月2時間分の作業(アップデート適用)も委託したい場合は、WordPress アップデート代行との組み合わせになります。
シナリオ3:Shifter で静的化
サイトを静的化し、WordPress の稼働そのものをなくすシナリオです。構造が変わるため、一時費用は最も大きくなります。
一時費用(初年度のみ)
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 移行・静的化検証 (テーマ・プラグインの互換確認含む) | 300,000円(想定) |
| 問い合わせフォームの外部サービス移行 | 50,000円 |
| 移行に伴う社内対応(15時間) | 150,000円 |
| 一時費用合計 | 500,000円 |
月次コスト
| 費目 | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| Shifter Tier2(年払い) | 7,680円 | $48/月(1ドル160円換算) |
| フォーム外部サービス利用料 | 3,800円 | カスタマーサポート連携なし・フォーム設置のみの場合の金額例 |
| 定常保守作業(月1時間に減少) | 10,000円 | アップデート・セキュリティ監視が構造的に不要に。コンテンツ更新後の再生成・確認のみ |
| 突発対応(年5時間÷12) | 4,200円 | 稼働する WordPress がないため障害リスクが構造的に縮小 |
| 月次合計 | 25,680円 |
3年総コスト:25,680円×36ヶ月+500,000円=1,424,480円
一時費用は3つのシナリオで最大ですが、月次コストが現状の3分の1以下になるため、回収期間は約10ヶ月(月次差額51,820円で50万円を回収)。それ以降の差額はすべて削減分として積み上がります。
ただし、このシナリオには前提条件があります。静的化はすべてのサイトに適用できるわけではありません。会員限定コンテンツ、リアルタイムの在庫連動、サイト内のパーソナライズなど、リクエストのたびに動的な処理が必要な機能を持つサイトには不向きです。逆にいえば、コーポレートサイト・製品サイト・メディアサイトのように「更新はするが、閲覧者ごとに出し分けはしない」サイトであれば、この試算の構造がそのまま当てはまります。
3年総コストの比較
| レンタルサーバー継続 | Amimoto | Shifter | |
|---|---|---|---|
| 一時費用 | 0円 | 300,000円 | 500,000円 |
| 月次コスト | 77,500円 | 67,150円 | 25,680円 |
| 3年総コスト | 2,790,000円 | 2,717,400円 | 1,424,480円 |
| 3年総コストに占める 人件費 | 約97% | 約47% | 約46% |
| 移行費の回収期間 | ─ | 約29ヶ月 | 約10ヶ月 |
| サーバ構成 | マルチテナント (共用) | シングルテナント (専有) | 稼働サーバなし (静的配信) |
| 他利用者の影響 | 受ける可能性あり | 受けない | 受けない |
| 突発対応の予測可能性 | 低い(都度発生) | インフラ起因は 委託範囲 | 障害リスク自体が 構造的に縮小 |
| 属人性 | 高 | 中 (アプリ層は残る) | 低 |
| 動的機能の自由度 | 高 | 高 | 制約あり (外部サービス併用) |
この表から読み取れることを3つに整理します。
1. 「サーバ代の比較」は総コストのごく一部しか見ていない
サーバ費用だけを並べれば、レンタルサーバー2,500円 vs Amimoto 34,650円 vs Shifter 11,480円で、現状維持が圧倒的に安く見えます。しかし人件費を含めた総コストでは順位が入れ替わります。月2,500円のサーバの上で、月75,000円分の人の時間が使われている ── この構図を見ずに移行判断はできません。
2. 静的化できるサイトなら、Shifter の総コスト優位は明確
3年で約137万円の差は、一時費用の大きさを考慮しても揺らぎません。判断のポイントは金額ではなく「自社サイトが静的化の前提条件を満たすか」に移ります。
3. Amimoto の価値は金額差ではなく構造の変化にある
総額が現状維持とほぼ並ぶからこそ、比較すべきは「同じ270万円で何を得ているか」です。現状維持の270万円は、共用サーバの上で担当者の時間と引き換えに現状を保つ費用です。一方 Amimoto の270万円には、人的リソースの軽減(インフラの専門的な運用・障害対応・説明可能性)に加えて、共用から専有への構成のグレードアップが含まれています。他の利用者の影響を受けない専有リソース、環境分離によるセキュリティ境界の明確化 ── これらは同じ金額の中身として、単純な料金比較では見えない差です。動的機能を維持する必要があるサイトにとって、これは支出の削減ではなく、支出の中身の入れ替えと質の向上です。
この試算を自社に当てはめるとき
モデルケースの数字を自社の値に置き換える際、結果を大きく左右する変数は3つです。
- 定常作業時間
ここが月10時間、15時間と大きいほど、移行の効果は加速します。逆に月1〜2時間で回っているサイトでは、現状維持が合理的な場合もあります。
- サイト数
複数サイトを運用している場合、人件費按分はサイト数に比例して積み上がる一方、委託側はプラン集約でスケールメリットが出ることがあります。
- 突発対応の実績
過去に大きな障害を経験しているサイトほど、「予測可能性」の価値が数字以上に重くなります。
まとめ
移行の判断は単月の料金表ではなく、一時費用と回収期間を含めた複数年の総コストで行う必要があります。そして総コストの大半を占めるのはサーバ代ではなく人件費です。本記事の試算構造(一時費用・月次コスト・回収期間・人件費比率)をそのまま使えば、自社の条件での3シナリオ比較が作れます。
「自社サイトが静的化できるか判断がつかない」「移行の一時費用の見積もりがほしい」という段階になったら、我々にご相談ください。サイトの構成を確認したうえで、どのシナリオが現実的かを一緒に整理できます。
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