
Web 制作会社にとって、クライアントサイトのホスティングは扱いにくい領域です。契約書に書かれていないのに、サイトが落ちれば最初に電話がかかってくるのは制作会社。サーバの選定に関わっていなくても、「御社が作ったサイトなんだから」という理屈で一次対応に巻き込まれる ── 心当たりのある方は多いはずです。同じ提案をしても、地方の制作会社と首都圏の制作会社では通る金額感が違い、決裁者が1人か複数かで刺さる論点も変わります。この違いを先に知っているかどうかで、商談の成功率は大きく変わります。
以前、発注側に向けて「サーバの管理責任はどこにあるのか」という記事を書きました。
WordPress サイトを Web 制作会社に発注しているが、サーバの管理責任はどこにあるのか ─ 発注側が知っておくべきこと
本記事はその裏返しです。制作会社の側から、クライアントにホスティング移行をどう切り出し、どんな資料で提案し、想定される反論にどう答えるか。実際の商談で使える粒度でまとめます。
目次
なぜ移行提案は「クライアントのため」であると同時に「自社のため」なのか
ホスティング移行の提案を、単なる追加提案・アップセルと捉えると腰が引けます。しかしこの提案の本質は、責任分界の曖昧さという、制作会社が抱えているリスクの解消です。
現状、多くの案件で起きているのは以下のような状態です。
クライアントが契約したレンタルサーバに、制作会社がサイトを構築して納品した。保守契約は結んでいない、あるいは「更新作業」程度の軽い内容しか含まれていない。この状態でサーバ障害・改ざん・表示崩れが起きると、契約上は誰の責任でもないのに、実務上は制作会社が動くことになる。動いた工数は請求しにくく、対応が遅れれば関係が悪化する。
契約に書かれていない「期待」は、制作会社にとって高くつくコストです。
ホスティング移行の提案は、この構造を解消する行為です。インフラの責任主体を明確にし、障害対応の窓口と範囲を契約で定義する。クライアントにとっては「何かあったときに誰が動くのか」が明確になり、制作会社にとっては無償の一次対応から解放される… 両者の利害が一致する提案です。
提案の刺さり方は、規模と地域で変わる
先に断っておきたいことがあります。この記事で紹介するトークや資料は、どの案件にも同じ強さで効くわけではありません。むしろ、効き方の違い自体を先に知っておくことが、提案の精度を上げます。
決裁者の数と距離
決裁者の数と距離が最も大きな変数です。個人事業主や社長1人が意思決定するクライアントでは、その場で「じゃあお願いします」まで進むことがあります。判断基準は数字よりも「担当者(制作会社)を信頼できるか」に近く、後述する本記事の資料でいえば1枚目の構成図(責任の空白が見える絵)だけで話が動くケースも珍しくありません。一方、情報システム部門や法務、あるいは親会社の決裁を経由する規模のクライアントでは、資料の6枚すべてが必要になり、さらに「なぜ他社ではなく Amimoto/Shifter なのか」という選定理由の言語化まで求められます。決裁が1人か複数かで、同じ提案書でも通過するまでの往復回数が変わります。
地域による予算感の違い
首都圏の企業では「月数万円のインフラ費用」への抵抗が比較的小さく、金額よりもスピードや対応品質で判断される傾向があります。地方の中小企業では、同じ金額でも「サーバ代」という項目自体への馴染みが薄く、まず「なぜ今のサーバ会社への支払いを変える必要があるのか」という説明に時間がかかることがあります。これは地域性というより、IT investment に対する社内の意思決定プロセスが成熟しているかどうかの差である場合も多く、断定はできません。ただ、提案の前に「このクライアントは金額の話から入って良いか、先に信頼関係の話が必要か」を見極める価値はあります。
提案資料の構成:6枚で足りる
分厚い資料は不要です。意思決定者(多くは経営層か管理部門)が知りたいことは限られています。

このうち1枚目と3枚目の構成図の Before/After が提案の核です。金額の議論は4枚目まで始めない。責任の空白が埋まる絵を先に見せることで、金額は「その空白を埋めるための費用」として文脈づけられます。
ただし、1枚目と3枚目の図を描く前に確認しておくべきことがあります。Amimoto と Shifter では、責任分界の線が引かれる位置がまったく違います。 Amimoto がカバーするのはインフラレイヤー(OS・ミドルウェア)のみで、WordPress 本体・プラグイン・テーマ・コンテンツは公開されている責任共有モデル上、契約者側(=制作会社またはクライアント)の責任範囲です。一方 Shifter は、静的化エンジンの運用に加えて WordPress の実行環境そのもの(コアのバージョン管理・セキュリティパッチの自動適用・データベース管理)まで Shifter の管理範囲としています。つまり「動的維持か静的化か」の違いは、単なる技術方式の違いではなく、制作会社に残る作業量の違いでもあります。3枚目の構成図を描くときは、この違いを塗り分けの精度に反映してください。曖昧に「インフラを任せられます」とだけ書くと、後日「WordPress の更新もやってもらえると思っていた」という認識のズレを生みます。
提案を切り出すタイミング
やみくもに提案しても「なぜ今?」と返されます。移行提案が自然に受け入れられるタイミングは決まっています。
- サイトリニューアルの計画時
最も自然なタイミングです。どうせ環境を触るなら、という文脈で移行コストの心理的ハードルが下がります。
- 障害やトラブルの直後
「二度と起こさないためにどうするか」という文脈が既にあります。ただし、火事場の営業に見えないよう、まず復旧と原因説明を済ませてから。
- PHP・サーバ環境の EOL(サポート終了)通知
どのみち対応作業が発生するタイミングです。「延命か、この機会に構成を見直すか」という二択を提示できます。
- クライアント側の担当者交代
前任者の暗黙知で回っていた運用が引き継がれず、「現状どうなっているのか分からない」という不安が生まれる時期です。現状整理とセットで提案できます。
- レンタルサーバーの料金改定・値上げ通知
「どうせ費用が変わるなら」という比較検討の文脈が生まれます。
想定される反論と切り返し
商談で実際に出る反論は、ほぼ次の4つに集約されます。
「今のままで問題なく動いているのに、なぜ変える必要が?」
「動いている」と「問題がない」は別である、という点を静かに示します。効くのは障害の話ではなく人件費の可視化です。「いま御社の担当者の方が、アップデートや確認作業に月に何時間くらい使っていらっしゃいますか」と聞いてください。月5時間なら、時間単価10,000円換算で月5万円。サーバ代が月2,500円でも、実質コストは月7〜8万円 ── この構図を一緒に計算するだけで、「今のまま」が無料ではないことが伝わります。この試算の詳しい手順は WordPress 保守の費用対効果を自社で計算する にまとめているので、商談前に一読しておくと、その場で数字を組み立てられます。
「移行したら高くなるのでは?」
単月のサーバ代を比べれば高くなります。ここで守るべきは、安くなるとは言わないことです。誠実な比較軸は3年の総コストで、人件費を含めれば「レンタルサーバー継続とマネージドホスティングは3年でほぼ同額、静的化なら大幅減」というのが標準的な結果です(3年総コスト比較の記事 ※後でリンク設定のモデルケースでは、現状維持279万円に対し Amimoto 約272万円、Shifter 約142万円)。「同じ金額で、共用サーバから専有環境へのグレードアップと、障害対応の予測可能性を買い直す提案です」という言い方が、過剰な期待を抱かず、あとで揉めません。
ただし一点補足が必要です。Amimoto の料金に含まれるのはインフラ層の保守のみで、WordPress 本体やプラグインのアップデートは範囲外です。この部分を誰かに任せたい場合は、Amimoto が提供する有償のプロフェッショナルサポートなどの追加費用が発生することを、比較表の注記として必ず入れてください。ここを省くと、後日「言われた金額より高い」というクレームに直結します。
「移行作業が面倒。何かあったら困る」
この不安の正体は「移行の全体像が見えないこと」です。移行スケジュール(資料5枚目)を見せ、クライアント側の作業が実質どこだけなのか(検証確認・DNS 切替の承認・社内周知)を明示します。「切り替え前に検証環境で動作確認を済ませ、問題があれば切り替えない」という手順そのものが回答になります。
「制作会社さんにサーバのことまで任せて大丈夫?」
正直に答えるべき、最も重要な質問です。ここで「うちで全部やります」と答えると、冒頭で述べた責任分界の曖昧さを自ら再生産することになります。正解は役割の分離を提示することです。「制作・コンテンツはこれまで通り弊社、インフラの運用・監視・障害対応は WordPress ホスティングを専門にしている事業者に任せ、弊社は御社とその事業者の間の窓口・調整を担います」── 専門領域を無理に抱え込まない姿勢は、信頼を損ないません。むしろ、なんでも「できます」と言う会社より誠実に映ります。
この回答を裏付けるために Amimoto/Shifter それぞれが公開している責任共有モデルの文書に一度目を通しておくことをお勧めします。たとえば Amimoto は24時間365日のサーバ監視を行い、異常検知時にはスタッフへ即時通知される一方、SLA(サービスレベル契約)は設定していないと明記しています。サポート窓口もメールベースが基本で、電話サポートはありません。「絶対に落ちない」「すぐ電話で対応してもらえる」といった過剰な期待を作らないよう、この点は事前にクライアントへ伝えておくべきです。
同様に Shifter も、プラットフォーム起因の障害は無償で対応する一方、プラグイン設定やテーマカスタマイズなど契約者側の作業については、有償サポートでもアドバイスの提供に留まり、実装作業そのものは代行しないと明記しています。つまり静的化後も、テーマ調整やコンテンツ更新といった実作業は、クライアント自身が行うか、これまで通り制作会社が担うことになります。「サーバのことは任せられるが、御社の中身の作業は変わらず弊社が担当します」という説明は、誇張のない正確な回答です。
規模別に見る、提案の通り方の違い
前述の「決裁者の数」「地域」の変数を、もう少し具体的な型として3つ並べます。実在の特定案件ではなく、複数の相談内容から抽出した典型パターンです。自社の案件がどれに近いかを当てはめてみてください。
パターンA:地方・小規模制作会社 → 個人店・中小企業クライアント
決裁者は社長本人。サーバ代は月2,000円前後、保守契約はなし。提案の切り口は人件費の可視化よりも「今、何かあったら誰も対応できない」という不安への言及が効きます。金額の比較表(資料4枚目)まで見せる前に、1枚目の構成図で話が決まることもあります。移行先は静的化(Shifter)が向いているケースが多く、月額の絶対値がクライアントの感覚に馴染みやすいことも理由の一つです。提案から契約までのリードタイムは短い傾向があります。
パターンB:首都圏・従業員20〜30名の制作会社 → 中堅企業のコーポレートサイト
決裁者は情報システム担当と経営層の2段階。担当者の作業時間(月5〜10時間程度)を可視化した資料が効き、3年総コストの比較表(資料4枚目)まで確実に見せる必要があります。動的な機能(会員機能・多言語など)を持つサイトが多く、Amimoto のようなマネージドホスティングの提案が中心になります。決裁が2段階のため、担当者向けの詳細資料と、経営層向けの1枚サマリーを分けて用意すると通過が早くなります。
パターンC:首都圏・大手制作会社 → 上場企業のグループ会社サイト
決裁は情シス・法務・親会社を経由する複数段階。個別の金額提案の前に、セキュリティ要件・ガバナンス(ログ管理、権限設計)への回答が求められることが多く、資料6枚に加えて技術的な質問への回答書が別途必要になるケースもあります。提案から契約までの期間は長くなりますが、一度体制が決まれば複数のグループ会社サイトへ横展開できる可能性があり、単価と件数の両方が伸びやすい領域です。
3パターンを並べて分かるのは、「刺さる資料の枚数」も「決め手になる論点」も、規模と決裁構造で変わるということです。パターンAの相手にパターンCの資料を見せると情報過多で離脱され、パターンCの相手にパターンAのトークをすると軽く見られます。次章の資料構成は、どのパターンでも共通して使える最大公倍数として組んでいますが、実際の商談では出す枚数と順序を相手に合わせて調整してください。
提案が通ったあと ─ 制作会社は何を持ち、何を持たないか
移行後の理想的な分担は次の形です。ただし、選んだサービスによって線の引かれ方が違う点は正確に伝える必要があります。
- 制作会社が持つもの
デザイン・実装・コンテンツ更新・クライアントとの関係と一次窓口。テーマのカスタマイズ、プラグインの選定・設定、コンテンツの品質管理は、Amimoto でも Shifter でも変わらず制作会社(またはクライアント自身)の役割として残ります。
- ホスティング事業者が持つもの
Amimoto の場合はインフラの構築・監視・バックアップ・障害対応(OS・ミドルウェア層)。Shifter の場合はこれに加えて、静的化エンジンの運用や WordPress 本体のバージョン管理・セキュリティパッチの適用まで含みます。どちらのサービスも、テーマ・プラグインの実装作業そのものは代行しません(有償サポートがある場合も、範囲はアドバイスに限られます)。
- 共同で行うもの
クライアントへの定期報告(Amimoto/Shifter からのレポートを制作会社経由で共有する形が、窓口の一本化と専門性の両立になります)
この分担が示す重要な点は、ホスティングを移行しても、制作会社の保守案件そのものは消えないということです。むしろ「インフラの不安」という制作会社が本来やりたくなかった領域が外れ、テーマ・コンテンツ・プラグインという本業に近い領域の保守契約として、クライアントとの関係を再定義できます。
LabWorks では、制作会社と組んでこの分担を設計するケースを多く扱っています。Amimoto(マネージド)と Shifter(静的化)の両方を提供しているため、クライアントのサイト特性に応じて「どちらを提案すべきか」の相談から入れます。制作会社が単独のホスティングサービスと組む場合と違い、案件ごとに最適な方を選べるので、提案の中立性を保ちやすいのも利点です。
まとめ
ホスティング移行の提案は、追加売上のためのアップセルではなく、契約に書かれていない無償対応という制作会社自身のリスクを解消し、クライアントの「何かあったら誰が動くのか」という不安を同時に解決する提案です。切り出すタイミングを見極め、人件費を含めた実質コストで語り、責任分界の Before/After を図で見せる ── この3点を押さえれば、商談の難度は大きく下がります。
ただ、本記事の3パターンはあくまで典型例です。実際にはもっと細かい地域差・業種差・規模差があるはずだと考えています。皆さんの会社では、この提案はどのくらいの金額で、どのくらいの期間で通りましたか。あるいは通らなかった場合、決め手になった(ならなかった)論点は何でしたか。 ぜひ実感を聞かせてください。
クライアントへの提案を検討している制作会社の方は、LabWorks へご相談ください。提案段階からの同席や、貴社案件に合わせた比較資料の作成支援も含めて、一緒に進めることができます。
関連リンク
- WordPress 専用のマネージドホスティングサービス Amimoto
- テクニカルサポートおよび保守に関するご案内(Amimoto)
- WordPress サイトを高速・安全・メンテナンスフリーに Shifter
- Shifter 責任共有モデル(Shifter)
当社へご興味をお持ちいただきありがとうございます。
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担当者よりご連絡差し上げます。










